江戸しぐさ 其の拾壱 (聞き耳しぐさ)

聞こえても聞かぬ心がけ 江戸に住む多くの人は長屋に住んでいた。長屋の作りは貧弱で、薄い板と簡単な壁によって各家は仕切られていた。だから、隣家の声は当たり前のように聞こえた。

そこで生まれたのが「聞き耳しぐさ」である。このしぐさは、聞き耳を立ててこっそり話を聞くということではない。そういうことをしてはいけないというしぐさである。

当時はたとえ密閉された空間でも、障子や襖など、防音には役立たない建具で家が造られていたから、聞こえてきた話は、聞こえていない、ないものとして忘れた。これが聞き耳しぐさである。

立ち話でも、近くで耳をそばだてることは嫌がられた。たとえのれん一枚でも、その向こうで話され、偶然耳にしたことは聞こえないものとして処理したのである。

プライバシーを尊重するしぐさ 江戸人の、プライバシーに立ちいらない基本的な態度が聞き耳しぐさだったのだ。

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