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特許の怪物「パテント・トロール」 その対策は? 1/3

正義の女神テミス像

米特許法が改正され先願主義に移行した。日本企業にとって最大の注目点は「パテント・トロール」対策となる。自らはモノ作りをせず、買い集めた特許を武器に企業へ損害賠償訴訟などを仕掛ける。”トロール会社”に狙われると、対応は困難を極める。

そこで清流会同窓生諸氏への強い味方。岸本芳也氏(高25回生)に、その対策について解説をお願いしました。
岸本氏はシュグルー・マイアン外国法事務所・代表パートナーとしてご活躍中です。岸本芳也氏:当HP 2011.9.30にご紹介記事を掲載。
とにかく素早い対応が肝心。ご相談はお気軽にと同氏に快諾いただきました。

シュグルー・マイアン外国法事務弁護士事務所 代表パートナー

岸本芳也(ニューヨーク州およびコロンビア特別区弁護士、米国および日本国弁理士)

資源の乏しい日本が、国際社会で勝ち抜くためには、製造業、とりわけ新技術の創造・研究開発が重要です。その一方で、特許やデザイン、商標、著作権などの知的創作活動の成果を保護しそれを活用するための知的財産に対する国際戦略がますます重要となってきています。技術立国と知的財産立国の実現こそが日本の競争力の増加のための鍵となります。

今や米国では、特許ライセンスを含めた訴訟ビジネスは事業の一部となっており、米国でビジネス活動を続けていく以上、常に訴訟ビジネスの対象として狙われる危険性と隣合わせです。企業における知財法務体制の強化が急務となっているにもかかわらず、周りに適切なアドバイスをくれる専門家が少なく、また、的確な情報の入手も困難なことから、米国の訴訟ビジネスの構造やその実際を理解するのに苦労されている企業担当者も多いことと思います。

今回から3回にわたり、最近特許業界で猛威を振るっているパテント・トロールについて、1回「パテント・トロールとは」、2回「パテント・トロールのビジネスモデル」、3回「パテント・トロールに対する対策」について解説をします。少しでも知財訴訟の実態をご理解頂ければ幸いに思います。

パテント・トロールとは

(1)背景

ある日突然、「貴社製品は当社の特許を侵害している。もし訴訟されたくなければ、その賠償として和解金を頂きたい。」と、名も知らない相手から侵害を警告する書状を受け取ったとき、どのように対処すればよいか。調査の結果、その相手が、自らは製品の製造・販売やサービスの提供をせず、もっぱら特許権行使だけをビジネスとする特許管理会社だったとしたら、どのような対策が必要であろうか?

米国では近年、マイクロソフト、アップル、インテル、eBay、RIMなどのIT大企業が、「パテント・トロール」と呼ばれる特許管理会社により特許侵害訴訟等で訴えられる事件が急増しています。多くのIT企業は、多額の賠償金による和解を余儀なくされ、かなり深刻な社会問題となっています。

パテント・トロールの問題は日本にも波及し、多くの日本企業がパテント・トロールから訴訟提起され、かなり深刻な社会問題となりつつあります。

(2)パテント・トロールとは

「パテント・トロール」の正式な定義はないようですが、一般には、自らは研究開発ないし製品の製造・販売をいっさい行わず、倒産した企業や買収された企業などから安価に特許を取得し、特許権を濫用して大企業から賠償金やライセンス収入を獲得することだけを目的とした特許管理会社を指すといわれています。

「トロール(troll)」の由来は、北欧の民話に登場する悪い妖精からきています。トロールは、橋の下などに隠れていて、「お金をくれないと、この橋を通さないぞ」と言って、通行人からお金をせしめます。トロール人形は、鼻や耳が大きく醜いものとして描かれ、欧米各地の観光地などで手に入れることができますが、今ではネットでも買えます。

(3)パテント・トロールの先駆け

米国ではかつて、「サブマリン特許」という旧来の特許制度の不備を突いて、企業を訴える事件が相次ぎ、これがパテント・トロールの原型ともいわれています。「サブマリン特許」は、出願日を維持しつつ、長く公開を免れるように(人目に触れないように)特許明細書の補正や手続の継続などを繰り返し、技術が普及した時点で突如特許を成立させるものです。そして、この特許を武器に権利侵害を訴えて多額の実施料を要求するということが行われました。水面下に潜って敵に接近し、突如として浮上し攻撃することから「サブマリン」特許の名称が付けられました。現在は、特許公開制度が採用されているため、「サブマリン特許」による問題はなくなりました。

サブマリン特許は長年、米国産業界、特にエレクトロニクス関連企業を悩ませてきました。この戦術がこれほど悪名高いのは、個人発明家レメルソン氏によるところが大です。レメルソン氏は、1950年代に最初に出願された古い特許出願を何回も継続出願し、バーコード・システムを含むあらゆる技術分野での特許を成立させました。レメルソン氏はこれらの特許を用いて、1992年頃から、日米欧の自動車メーカーや電機メーカーなどに対し多額の特許ライセンス料を請求し始めました。貿易摩擦の真っ只中で、これ以上余計な摩擦を回避したいという心理的な圧迫と、多大な時間と費用を要する米国での訴訟を嫌い、多くの日本企業が和解を選んだのに対し、米国のビッグ・スリーは訴訟を選択しました。フォード社は、特許無効の確認訴訟を提起しましたが、その訴えは退けられ、1998年に和解を余儀なくされました。結局、レメルソン氏は、延べ1,000社以上の会社から15億ドルというライセンス収入を得たと言われています。

次回はパテント・トロールのビジネスモデルについてお話します。

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