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旧制中学、旧制高女 先輩連の男女共学・騒動記(4)

抽選風景

加古女の巻(下)

抽選順位を定めるのに心臓がどきどき、一寸早過ぎはしないかと人事乍ら気がもめる。AかB若しくはCと組を分ける所に進む。前より遥かに、気持ちが引締まざるを得ない。堅くなって背丈が縮んだのか札の置場が高過ぎたか背伸びの必要な人もあり、如何な冷静家にても中の札を掻混ぜてよりとるわけには行かぬ窮屈な所だった。ここを抜けると直ぐ各自の籤が指す控室に向かう。

この中で大半の人の気を目で読みとると次のよう・・・・第三者でない私にも馬鹿らしい。例えば「どうか東でありますように」とか「Bが残留します様」等いう具合に神に願掛けをし始めるからたまらない。平素の茶目嬢がこうであるから感傷的な人達になるとすっかり元気を失い卒倒した類もあり、半数以上は全く不安の体で何處も同じ活気がない。運命の籤を引きに行った十人の代表は如何様か。

後に残った者は考える余地もなく「C」と何處からともなく聞こえる聲にすっかり詮める者が多くなった。C組では様々の音聲を発する。が然し折角一部の人が喜んだのも束の間、「Bだ」と次の放送があるから滑稽である。「A」と大きな聲、今度こそ確からしい。「どうしよう○○さんはAや」「いやあ嬉しい」と一度にどっと騒ぎ始める。一人が歓聲をあげると續いて二人、三人、嬉し、悲しと思いの儘を語るのも聞くのも面白くゼスチアを見るのが変化に富んで興味がある。希望の叶った人は躍上がらんばかりに喜んだが、運命の皮肉は何處迄も附纏って親愛なる友とえにしの綱を切られた者も少なくない。この日は深く感じて泣く人も先ずなかった。

この抽選は當日よりも寧ろ明三十日に大きな打撃となった。惜別の辞は高く低く人の心を捉え感動の中に終った。それにも増して對面式の朝、師と友を送る校庭は涙と雨がマッチして今日を限りの校歌の齊唱に一層の懐かしさと哀愁を感じた。「小夜奈良」別離の言は短かった。が短ければ短い丈に余韻は長く行く者と送る者の胸に傅わった。(記者の見た真相)終

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